大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

仙台地方裁判所 昭和30年(行)7号 判決 1960年2月15日

原告 佐藤由右衛門

被告 仙台国税局長

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、被告が昭和二九年一二月二一日原告の審査請求に対してした決定中、本件再調査請求の目的となつた処分に対する審査の請求を棄却する、旨の部分を取消す。訴訟費用は被告の負担とする。との判決を求め、

第一、その請求の原因として、

一、原告は、昭和二九年三月一五日仙台南税務署長に対し、原告の昭和二八年度の課税総所得金額を金一二五、〇〇〇円所得税額を○と申告したところ、同署長は、昭和二九年四月一七日附で原告の昭和二八年度分課税総所得金額を金二二〇、〇〇〇円所得税額を金一三、〇〇〇円と更正し、翌日その旨原告に通知した。原告は、右更正に異議があつたので、同年五月一二日同税務署長に対し再調査の請求をしたが、同署長は同年六月一七日右請求を却下しその頃その旨原告に通知した。原告は、右決定に対し異議があつたので、同年七月一日頃被告に対し審査の請求をしたところ、被告は、同年一二月二一日附で本審査請求の目的となつた、再調査請求に対する却下処分を、取消す。再調査請求の目的となつた処分に対してなされたものとみなされる審査の請求を棄却する旨の決定をし、翌日その旨原告に通知した。

二、しかしながら、原告の昭和二八年度の所得税の課税標準となる総所得金額は下記のとおり金一二五、〇〇〇円を超えないのであつて、之を上記のとおり金二二〇、〇〇〇円と更正した処分を是認した被告の上記決定は違法であるので、その取消を求めるため本訴に及ぶと陳述し、

第二、

一、被告主張の第二、一、記載の事実中、原告が原告主張の上記所得金額裏付の資料として被告主張のもののみを有するに過ぎないとの事実を否認する。原告の所得額は、次のとおり、収支計算によつて算出可能であり、その額は下記のとおり、金一二五、〇〇〇円をこえない。

(一)  原告は、被告主張のとおり、係争年度における一月から九月六日までの売上を記載した売上帳を有する。

他方、同年度における六大都市以外の都市の菓子商の一般月別売上効率表は左のとおりである。

月別指数

一〇

一一

一二

一〇〇

九六

一一〇

一〇六

一〇九

九七

一〇二

九二

九三

一〇六

一一六

一四二

一、二六二

右年度における原告の売上一月以降八月までを右売上帳により、九月以降一二月迄を右効率表によつて算出すれば次のとおりとなる。

月別

売上額

八七、五三〇

五九、〇二〇

七二、八八〇

八五、二八〇

一〇六、五七〇

一〇四、九三〇

一〇三、三二〇

月別

一〇

一一

一二

売上高

八〇、五二七

八一、四〇二

九二、七八二

一〇一、五三二

一二四、二九二

一、一〇〇、〇六五円

なお、同年には、他に金一、三〇〇円の雑収入があるから、同年における総収入額は金一、一〇一、三六五円である。(原告が提出した審査請求添付の収支計算書月別内訳明細書の総収入額の記載は誤であるので右のとおり修正する。)

(二)  これに対し、原告の同年度における販売品並に材料仕入総額は金八一五、一〇〇円であつて、その内訳は次のとおりである。(前記明細書の同項目金額の記載も誤であるので右のとおり修正する。)

仕入先

品目

金額

仕入先

品目

金額

武者商店

砂糖、飴等

三〇〇、〇〇〇円

望月製飴所

四六、〇八〇円

若生

干菓子

一六〇、〇〇〇

かつぎや

下粉

一二、〇〇〇

鈴木

小麦粉

五二、二五〇

各所

一七、〇〇〇

庄司

雑粉

二四、〇〇〇

油脂類

一〇、〇〇〇

折原

落花生等

二一、六〇〇

薬品

六、〇〇〇

工藤

パン

六四、〇〇〇

ジヤム

四、八〇〇

三丸

ジヤムクリームパン

六〇、〇〇〇

甘納豆

一八、〇〇〇

各所

カステラ

九、六〇〇

サイダー等

九、七〇〇

計 八一五、一〇〇円

(三)  次に、同年度における原告の営業必要経費は金二四〇、九六〇円で、その内訳は次のとおりである。(前記明細書の同項目金額の記載も誤であるので右のとおり修正する。)

科目

金額

備考

公租公課

一一、七〇〇円

事業税、自転車税、固定資産税

水道料

二、〇六四

燃料費

四五、九三五

木炭、コークス他

電気料

三、九六一

旅費

六、八〇〇

県外へ研究のため使用他

通信費

六〇〇

電話料他

広告宣伝費

二二、〇〇〇

年始年末用福引券景品代中元用うちわ看板代

消耗品費

六五、六九七

包装紙その他諸消耗品費

交際接待費

一、八五〇

交通費

四、七二八

主として市内交通費

衛生費

六〇〇

店及工場消毒薬品代

雑費

一八、六六〇

白衣代新聞代工場作業用の備品等

修繕費

二一、八五〇

自転車店舖工場修繕

支払費

一一、一八〇

宮城第一信用金庫

減価償却費

一一、〇九五

註一

貸倒金

一二、二四〇

名取郡名取町閑上 加藤米吉 八、〇〇〇円 仙台市連坊小路 鈴木かつ 四、二四〇円

合計 二四〇、九六〇円

註一 自転車一八、五〇〇円を五、九二六円に陳列ケース一三、五〇〇円を五、一六九円にそれぞれ減価した。

(四)  以上(一)記載の総収入金額から(二)、(三)記載の金額を差引くと金四五、三〇五円となるが、これが原告の昭和二八年度における総所得金額である。

二、被告主張の第二、二の推計によると原告の所得額算定は次のとおり不当である。

(一)  被告主張の第二、二(一)の原告家の昭和二十八年度における生計費の推計について

(1) 仙台市における昭和二八年度一〇人家族の平均生計費が被告主張のとおり一人当り金三九、五三三円であり、一〇人家族としてそのうち一人が八月死亡したものとすれば、その全家族の年間生計費が金三八〇、三八三円であることは認める。

(2) しかし、右は支出階級別に見て、中等度の生計費である。

(イ) 原告は仙台市の周辺部に居住する極貧者で、生活保護を受ける者の生活程度と同程度である。従つて、原告の当時の世帯構成並に食料費、保健衛生費、被服費の合計は次のとおりになる。

年令

七六

五一

四六

二四

二三

二一

一九

一五

一三

合計

性別

金額

一、〇七〇円

一、五五〇円

一、二七五円

一、六六〇円

一、六六〇円

一、四〇五円

一、四〇五円

一、五五〇円

一、四九五円

一、一六五円

一四、一八五円

右の年額(但女七六才は八月中死亡したので同月まで)は金一六五、九四〇円である。

この他、家具、什器費、水道料、光熱費、電灯料、薪炭費、マツチ代の各費用及雑費は九人家族につき月金七〇五円年額金八、四六〇円である外、亡き母の八月までの右費用は金五二〇円であるから合計金八、九八〇円であり冬期加算金として冬期四ケ月各月額二九五円合計金一、一八〇円を加算して外に住宅料年額金九、八二〇円以上合計すれば、原告全家族の係争年間生計費合計金一八五、九〇二円となる。

(ロ) かりに、原告の家庭の生活が保護家庭の生活を上廻るとしても、宮城県調査課作成の仙台市生計統計速報によれば、昭和二八年度における中位生活者と下位生活者の生活階級別生計比率は一五対一二であつて、下級者の生計費は標準生計費を二割下廻るのである。従つて原告の右期間の生計費は多くとも金三〇〇、〇〇〇円を出るものではない。

しかるに、原告家の生計費を金三八〇、三八三円と推定し、これに基いて所得税の課税標準となる総所得金額を算出した被告の推計は、不当である。

(二)  被告主張の第二、二(二)の資産負債の増減調査による原告の係争年度の総所得金額の推算について

(1) 被告主張第二、二、(二)の事実中、(一)資産の部、(二)負債の部中の未納税金、(五)純資産増加額より控除されるものの中家族所得についての被告主張は認めるが、その余は否認する。

(2) 原告は右年間に若生菓子店に対し金一〇、〇〇〇円、鈴木米穀店に対し金一、〇〇〇円、庄司潔に対し金九、〇〇〇円、戸部順一に対し金四、〇〇〇円、高橋喜津雄に対し金二五、〇〇〇円、佐藤光平に対し金五〇、〇〇〇円、丹野久一に対し金五〇、〇〇〇円、合計金一四九、〇〇〇円の借金債務を負担するにいたつた。

しかるに、右負債を計算に入れないで総所得金額を算出した被告の推計は、不当であると述べた。

(立証省略)

被告指定代理人は、主文同旨の判決を求め、答弁として、

第一、

一、原告主張の第一の一の事実は認める。

二、しかし、原告主張の年度におけるその総所得金額は下記のとおり金二二〇、〇〇〇円を超えるので之を同金額に更正した仙台南税務署長の処分を是認した被告の審査決定には何の違法もないから、原告の本訴請求は棄却されるべきである。

第二、

一、原告は、肩書地に菓子製造工場(約二坪)及び店舖(約四坪)を有し、菓子の製造及び販売業を営む者であるところ、

(1)  昭和二八年度分所得税に関する本件審査請求において、総所得金額を金一二五、〇〇〇円と主張しているが、その主張を裏付ける資料として、わずかに、昭和二七年四月二一日の開業当初より昭和二八年九月原告の母の死亡の時まで(係争年度については一月から九月六日まで)を記載した売上帳と一部受領書を所持しているにすぎず、仕入帳、現金出納帳その他の記帳がなく課税資料が極めて不完全である。これらの全資料によつても正確な売上及び仕入経費を計算することができないばかりでなく、原料商品の棚卸も行われていないから、正確な収支計算は到底不可能である。従つて、収支計算により原告の総所得金額を算出することは不可能であるから、被告は、やむなく所得税法第四五条第三項の定めるところにより、推計によつて原告の所得額を把握するほかなかつたのである。

(2)  原告は、原告の有する資料によつて係争年度の収支を計算して原告の所得額を算出することができるとし、その数字を主張するが、原告主張の売上帳の内容の正確なこと、売上効率表の正確であることはともに之を争う。こころみに、原告の同年一月から八月までの売上について、原告主張の売上効率表所定の月別指数と原告主張の一月分の売上額を基準として計算した二月以降八月までの売上金額と原告主張の売上実績とを比較すれば、次表のとおり、各月ごとに相当の差異があることからみても、右売上効率表は合理性に欠けることが明らかである。従つて、原告の記帳のない九月以降一二月までの売上金額を右売上効率表によつて算出することは当を得ない。

一月

二月

三月

四月

五月

六月

七月

八月

備考

原告売上帳記載の数字

売上金額

八七、五三〇・

五九、〇二〇

七二、八八〇

八五、二八〇

一〇六、五七〇

一〇四、八五〇

一〇三、三二〇

九〇、二四〇・

指数

一〇〇%

六七

八三

九七

一二一

一一九

一一八

一〇三%

効率表を適用した数字

売上金額

八七、五三〇・

八四、〇二八

九六、二八三

九二、七八一

九五、四〇七

八四、九〇四

八九、二八〇

八〇、五二七・

指数

一〇〇%

九六

一一〇

一〇六

一〇九

九七

一〇二

九二%

(3)  なおまた、原告は本件訴状において、原材料費を金七七〇、〇〇〇円、営業必要経費を金二一〇、〇〇〇円と主張し、後にいたつて(昭和三一年八月一四日)製造及び販売の原価金八一五、一〇〇円、必要経費を金二四一、七〇〇円と主張し、その主張額を変更しているが、このこと自体原告の主張が根拠をかく証左である。

二、そこで、被告は、原告の所得を推計するのに次の方法によつたのである。

(一)  原告家の昭和二八年度における生計費の推計

(1) 総理府統計局作成の集計調査報告書によれば、昭和二八年消費者実態調査による仙台市における消費者の同年間一人当り平均支出金額は、次表のとおり金五二、二二四円である。

月別

一世帯支出総額

一世帯当り人員

一人平均支出金額(円未満切捨)

一月

二〇、六三四円

五、二〇人

三、九六八円

二月

一九、八二六

五、一七

三、八三四

三月

二一、七二八

五、二二

四、一六二

四月

二〇、八四五

五、三〇

三、九三三

五月

二〇、一六五

五、二七

三、八二六

六月

二一、七六七

五、三二

四、〇九一

七月

二一、二五三

五、二八

四、〇三二

八月

二四、二三一

五、二三

四、六三三

一月から八月まで一人平均支出金額 合計三二、四七九円

九月

二二、二一一

五、三一

四、一八一

一〇月

二三、七三九

五、三九

四、四〇四

一一月

二三、九二九

五、二一

四、五九二

一二月

三三、一〇六

五、〇四

六、五六八

五二、二二四円

ところで、生計費(消費者の平均家計支出金額)は家族人員の増加に正比例して増加するものではなく、家族平均一人当りの生計費は家族人員の増加するに従つて減少するものであることは、総理府統計局の家計調査年報(昭和二八年度)「第四表世帯人員数別勤労世帯の年平均一ケ月間の収入と支出」で明らかであるが、その減少する割合は勤労者世帯の家計支出調査以外に発表されている統計その他のよるべき資料がないから、同年報第四表(全都市)を基礎として生計費を算出すれば次のとおり世帯構成人員五人の場合の一人一ケ月平均支出は五、九七九円で、世帯構成人員八人以上の場合の一人一ケ月平均支出は金四、五二九円となるから、前者に対する後者の割合は七五、七%となる。

(A)世帯人員数

(B)支出総額

(C)同上翌月へ繰越高

(D)((B)-(C))差引支出

DーA一人当平均

(イ) 五人

五、〇〇人

三八、六五三円

八、七五四円

二九、八九九円

五、九七九円

(ロ) 八人以上

八、五四人

四八、八三八円

一〇、一五八円

三八、六八〇円

四、五二九円

ロ/イ(割合)

七五、七%

ところで、総理府統計局の発表した仙台市における昭和二八年中の一人当り平均生計費は、上記のとおり、金五二、二二四円であるが、これは平均世帯人員五、二五人の場合である。原告の同年中の家族は九人(外に八月一日一人死亡)であるから、一人当り生計費の逓減割合を、前記勤労者の五人対八人以上の場合と同程度と推定すれば、金五二、二二四円に七五、七%を乗じた金三九、五三三円が同年中の原告の家族一人当りの生計費となるから、家族九名分として之を九倍すれば金三五五、七九七円となり、之に原告の死亡した母の八月までの生計費三二、四九七円の七五、七%にあたる二四、五八六円を加算すれば、原告の同年度分生計費は金三八〇、三八三円と推認される。

(2) 原告は、原告の生活程度が生活保護を受ける者の生活と同程度であると主張するが、原告の住所地管轄民生委員作成の生活保護を要する世帯(保護世帯)およびこれを必要とするような世帯(準保護世帯)の名簿に原告が記載されていないことからも、原告が少くとも普通の生活をしているものと認められ、原告の右主張は当を得ない。原告は、また、原告の生活がかりに右保護世帯の生活を上廻るとしてもなお下位の生活者であると主張するが、原告には生活費の記帳がなく、生活の上位中位下位の区分を判定する資料のない本件のような場合には中位として取扱わざるを得ない。なお、昭和二八年八月原告の母が死亡しその葬儀費用も支出しているから、他の一般の中位生活者より支出が多かつたことが考えられる。

(二)  次に、資産負債の増減調査により原告の昭和二八年度総所得金額を算出すれば、

(1) 次のとおり、金二七五、三五六円となる(単位)。

科目

期首

期末

増減

備考

(一)資産の部 △印 減少

宅地

五〇、八四九円

五〇、八四九円

―円

}註一

家屋

二一〇、七五二

二一〇、七五二

什器備品

一〇、五〇〇

一〇、五〇〇

ケース(乙四号証)

原材料商品

四三、三〇〇

四一、二〇〇

△二、三〇〇

審査請求書添付書類(乙第二号証)による

現金

五、〇〇〇

七、〇〇〇

二、〇〇〇

預貯金

三九、三五五

八六、七四八

四七、三九三

註二

小計

三五九、九五五

四〇七、〇四八

四七、〇九三

資産の増加

(二) 負債の部

買掛金

四、三八四

四、三八四

註三

借入金

一二五、〇〇〇

一五〇、〇〇〇

二五、〇〇〇

註四

未納税金

五、七二〇

一〇、一八〇

四、四六〇

註五

小計

一三〇、七二〇

一六四、五六四

三三、八四四

負債の増加すなわち資産の減少

(三)  純資産増加 一三、二四九 資産の増加額より負債の増加額を控除したもの

(四)  純資産増加額に加算されるもの

納付租税中家事関連分

四二五

註六

生計費

三八〇、三八三

小計

三八〇、八〇八

(五)  純資産増加額より控除されるもの

減価償却引当金

三、二六六

註七

家族の所得

一一五、四三五

註八

小計

一一八、七〇一

(六)  推計総所得金額 二七五、三五六円 (三)に(四)を加算し、(五)を控除したもの

註一 昭和二八年度分固定資産税の評価額は、宅地が金四二、〇〇〇円、建物金一〇七、二〇〇円であるから(乙第一一号証参照)、それぞれの百分比は、宅地二八%、建物七二%である。原告の国税協議官に対する陳述によれば、宅地及び建物は昭和二七年三月に買受けたものであり、その価格は合計金一八一、六〇〇円である。従つて、この価格に右百分比率を適用して宅地及び建物の価格を算定すると、宅地は金五〇、八四八円、建物は金一三〇、七五二円となる。なお、原告の国税協議官に対する陳述によれば、同年中建物に対し修理を施しており、その内資本的支出に属するものと認められるものが八〇、〇〇〇円であるから、建物の評価は金二一〇、七五二円となる。

宅地及び建物の価額には増減がないから、資産の部に特にこれを掲げる必要はないのであるが、これは後記減価償却引当金の算出に関連があるから、便宜ここに掲げたものである。什器備品についても、同様である。

註二 宮城第一信用金庫河原町支店に対する定期預金の増加金四六、七二五円、仙台信用金庫長町支店に対する普通預金の増加金九円及び七十七銀行長町支店に対する普通預金の増加金六五九円の合計額である。

註三 若生勝治郎からの買掛金の増加金四、三八四円である。

註四 宮城第一信用金庫新河原町支店からの借入金の増加金三〇、〇〇〇円と氏名不詳者からの借入金の減少金五、〇〇〇円(原告の国税協議官に対する陳述による)との差額である。

註五 期首は昭和二七年分未納事業税、又期末は昭和二八年度分未納事業税及び同年分未納固定資産税である。

註六 宅地の総坪数は四二坪であり、うち事業用に使用される部分は、工場及び店舖の敷地六坪及びその他四坪合計一〇坪であるから、宅地のうち事業用部分の割合は二四%となる。そして、宅地の昭和二八年度分固定資産税は、金六七〇円であるから、この二四%たる金一六〇円が必要経費となる固定資産税ということになる。又建物の総坪数は一六坪七合五勺であり、うち事業用に使用される部分は六坪であるから、建物のうち事業用部分の割合は三六%となる。そうして、建物の同年分固定資産税は金一、一一〇円であるから、その三六%たる金六一五円が必要経費となる固定資産税ということになる。従つて、宅地及び建物に課せられた必要経費となる固定資産税は金七七五円であるから、同年中の納付税金一、二〇〇円と右七七五円との差額金四二五円が家事関連分の租税として納付されたことになる。

註七 減価償却引当金の計算は次のとおりである。

種類

取得価額

事業費用割合

事業費用部分の価額

残存価額を控除した基礎価額

耐用年数

償却率

償却額

建物

二一〇、七五二円

三六%

七五、八七〇円

六八、二八三円

三〇年

、〇三四

二、三二一円

ケース(ガラス製)

一〇、五〇〇

一〇〇

一〇、五〇〇

九、四五〇

一〇

、一〇〇

九四五

三、二六六

右算出は定額法によつた。定額法については、昭和二八年政令第一六二号所得税施行規則第一二条の一一第一項第一号を、残存価額については、同条第四項を、耐用年数については昭和二六年大蔵省令第五〇四号固定資産の耐用年数等に関する省令第一条及び別表一を、償却率については、同省令第五条及び別表七参照。

註八 二男文也及び長女節子の昭和二八年度分収入合計である。二男文也は専売公社に勤務し、昭和二八年中に金七六、四三五円(金七七、四〇〇円から源泉控除市民税額金九六五円を控除したもの)の所得があり、長女節子は日の出劇場に勤務し、同年中に金三九、〇〇〇円の所得があり、右両名所得金額合計金一一五、四三五円となる。

(2) 原告は係争年度に合計金一四九、〇〇〇円の負債を有するに至つたと主張するが右事実は争う。先ず、若生生菓子店の金一〇、〇〇〇円、庄司潔の金九、〇〇〇円及び戸部順一の金四、〇〇〇円は、いずれも甲第二号証の一及び二、甲第六、第七号証によれば、昭和二八年末現在の買掛金であつて、同年の年頭の買掛金が明らかでないから、そのままの金額が直ちに同年中に生じた負債とは断定できない。又、鈴木米穀店の金一、〇〇〇円は、昭和二九年末現在の買掛金であるから本件とは関係がない。

(3) 以上の計算からすれば、原告の総所得金額は本件審査決定の是認した金額を上廻るのであるから、本件決定には何等の違法も存しないものであると述べた。

(立証省略)

理由

第一、原告主張の第一、一、の事実は当事者間に争がない。

第二、

一、被告は、原告の昭和二八年度の所得額を認定する資料として原告の所持するところは僅に係争年度の一月から八月分迄を記載した売上帳と一部受領証のみであり、原料商品の棚卸も行われていないので、正確な収支計算によつてその所得額を算出することは到底不可能であり、所得税法の認めるところにより推計によつて原告の所得を算定するの他ないと主張し、原告は之を争い、原告の有する資料からして原告の所得額を算定することができ、これによれば、その総収入は金一一〇一、三六五円、販売品並に材料仕入総額金八一五、一〇〇円、営業必要経費金二四〇、九六〇円で、原告の同年度の所得額は金四五、三〇五円となるにすぎない。と主張するので、この点を判断する。

(1)  証人古内勇治の証言によれば、原告が昭和二八年度の所得額算定の資料として国税協議官に掲示したところは、昭和二七年四月頃から昭和二八年九月六日までの数字を記載した売上帳にすぎず、仕入帳もなく、現金出納帳もなく、元帳もなく、経費を記載した帳簿もない上、右売上を記載した帳簿も売上先の記載もないものであつたことが認められる。

(2)  昭和二八年度における原告の営業による売上高に関する証拠として甲第一八号証の一ないし三が提出されているが、右書証には同年一月一日から同年九月六日までの毎日の売上の合計額が記載せられているに過ぎず、売渡先、売上品目、数量等の具体的な記載がなされていないのでその記載が正確なものであることは記載自体からは認めることができないし、その正確なることを裏付ける証拠は何もない。(この点に関する原告本人尋問の結果は措信できない。)その他売上高を証すべき証拠がないし、また、所得の計算に必要な商品、原材料等の棚卸に関する資料、現金出納を明確にする証拠がない。従つて全立証によつても直接昭和二八年度における原告の総収入金額を算定することは不可能である。従つて、同年度の原告の所得税の課税標準となる総所得金額(総収入金額より必要な経費を控除した金額)は直接証拠によつて算出することはできないから、推計の方法によつて之を算出するのを相当とする。よつて、次に被告主張の推計の方法による原告の総所得金額算出の当否を検討する。

二(一)  (昭和二八年度における原告家の生計費)

(1) 昭和二八年度における原告の家族数は一〇人であり、そのうち原告の母が同年八月中死亡したこと、仙台市における昭和二八年度の一〇人家族の平均生計費が、一人当り金三九、五三三円であり、一〇人家族のうち八月中一人が死亡したものとすればその全家族の年間生計費が金三八〇、三八三円であることは当事者間争ないところである。

(2) 原告は、右平均生計費は、階級別に見て中等度の生計費であり、原告は、(イ)仙台周辺に居住する極貧者で、保護世帯と同程度の生活状態で、従つて右年度の生計費は合計金一八五、九〇二円である。(ロ)かりに之を上廻るとしても、仙台市における下位生活級であつて右(1)記載の標準生計費の八割程度すなわち金三〇〇、〇〇〇円を出るものでないと主張するので検討するに、証人三浦吉光の証言によつて成立を認める乙第一三号証、証人渡辺由蔵の証言によれば、原告が同年、被保護世帯又は要保護世帯には属していなかつたことが認められる。証人庄子利男、渡辺由蔵の証言原告本人尋問の結果によつても原告の生活程度が右(1)記載の平均生活費の八割の程度であつたことを認めることは困難で他に之を認めるに足る証拠はない。

(3) そうすると、右(1)の平均生計費に基ずき原告の生計費を金三八〇、三八三円と推計するのを相当とする。

(二)  (昭和二八年度における原告の資産負債の増減)

(1) 被告主張第二、二、(二)の事実中、(一)資産の部、(二)負債の部中の未納租税、(五)純資産増加額より控除されるものの中家族所得が、それぞれ、被告主張のとおりであることは原告の認めるところである。

(イ) 資産の増加が金四七、〇九三円であることは当事者間争ない。

(ロ) 負債の部のうち、未納税金の増加が金四、四六〇円であることは当事者間争ない。

買掛金の増加が被告主張のとおり金四、三八四円であることは、証人若生勝治郎の証言によつて成立を認める乙第八及び第一四号証、証人若生勝治郎の証言を綜合して之を認める。借入金中宮城第一信用金庫新河原町支店からの借入金の増加が金三〇、〇〇〇円であることは、成立に争のない乙第五号証、証人森口五平の証言によつて認められるが、氏名不詳者からの借入金の減少が金五、〇〇〇円となることは之を認めるに足る証拠がない。

原告は、さらに昭和二八年度中に合計金一四九、〇〇〇円の借入を有するに至つたと主張するので検討するに、(a)若生勝治郎に対する借入金一〇、〇〇〇円、(b)鈴木米穀店に対する借入金一、〇〇〇円、(c)戸部順一に対する借入金二五、〇〇〇円は、(a)につき、証人若生勝治郎の証言及び同証言によつて成立を認める甲第二号証の一、二、乙第八および第一四号証、(b)につき、証人鈴木信夫の証言及び同証言によつて成立を認める甲第三号証、(c)につき証人戸部順一の証言及び同証言によつて成立を認める甲第七号証、証人猪俣謙吉の証言によつて成立を認める乙第一六号証によつても之を認め得ず、他に之を認めるに足る証拠はない。(a)庄司潔に対する借入金九、〇〇〇円については、証人庄司潔の証言、甲第六号証は、証人中山幸雄の証言によつて成立を認める乙第一五号証ならびに証人古内勇治の証言を対比して措信することができず、乙第一五号証、証人中山幸雄の証言によれば金四、〇〇〇円の限度において之を認めることができる。(e)高橋喜津雄に対する借入金二五、〇〇〇円については、之を認めしめるような証人高橋喜津雄の証言と甲第一九号証ならびに原告本人の供述は、証人猪俣謙吉の証言によつて成立を認める乙第一七号証と対比して考究すると之を採用することができないし他に之を認めるに足る証拠はない。(f)次に、佐藤光平に対する借入金五〇、〇〇〇円については、之を認めしめるような証人佐藤光平の証言、甲第二〇号証、原告本人の供述は、証人三浦吉光の証言によつて成立を認める乙第一八号証ならびに証人古内勇治の証言と対照して措信しがたく、乙第一八号証証人三浦吉光の証言によれば金二五、〇〇〇円の限度において之を認めることができる。(g)終りに、丹野久一に対する借入金五〇、〇〇〇円については、証人古内勇治の証言によれば、原告はこの金五〇、〇〇〇円の借入金については、本件租税申告の際は勿論、審査請求による国税協議官の調査に際しても、全く何等の申出もしなかつたことが認められ、この事実と甲第二一号証が後に至つて作成された証明書であることを考えあわせると甲第二一号証、証人丹野久一の証言、原告本人尋問の結果はにわかに信用することができず、他に原告主張の右負債を是認するに足る証拠がない。以上要するに、原告主張の負債中、庄司潔に対する金四、〇〇〇円、佐藤光平に対する金二五、〇〇〇円の各借入金は之を認めることができるが、その余は之を認めることができない。

そうすると借入金の増加は合計金五九、〇〇〇円であり、これに前記未納税金の増加金四、四六〇円及び買掛金の増加金四、三八四円を加算した金六七、八四四円が負債の増加額である。

(ハ) 純資産減少額は右(ロ)の債務の増加額金六七、八四四円より(イ)の資産増加額金四七、〇九三円を差引いた金二〇、七五一円となる。

(ニ)(a) 納付租税中家事関連分について見るに、原告所有の宅地の総坪数が四二坪、建物の総坪数が一六・七五坪であることは、成立に争のない乙第一一号証によつて認められ、右のうち、事業用に使用される工場及び店舖ならびにその敷地がそれぞれ合計六坪であることは当事者間に争がないが、宅地中その他の四坪が事業に使用されていることについては、之を認むべき証拠がない。そうすると、右宅地のうち、事業用部分の割合は、被告主張のとおり二四%ではなく、一四%となり、建物のうち、事業用部分の割合は被告主張のとおり三六%となる。そうして、上記乙号証、成立に争のない同第一二号証によれば宅地に対する昭和二八年度固定資産税は金六七〇円であるから、その一四%たる金九三円が必要経費たる固定資産税であり、上記書証によれば、建物の同年度の固定資産税は金一、七一一円(被告が金一、一一〇円とするのは誤述と認める)であるから、この三六%たる金六一五円が必要経費たる固定資産税ということになり、宅地及び建物に課せられた必要経費となる固定資産税は金七〇八円となるから、同年中の納付税金一、二〇〇円と右金七〇八円との差額金四九二円が家事関連分として納付されたものであることが認められる。

(b) 原告家の昭和二八年度の生計費が金三八〇、三八三円であること前記認定のとおりである。

従つて右(a)(b)の合計金三八〇、八七五円は同年度中原告家において生活のため支出した金額である。

(ホ) 原告の二男及び長女の昭和二八年度における収入が金一一五、四三五円であることは当事者間争ないところである。

(ヘ) 従つて、右(ニ)の総支出金三八〇、八七五円は、(ホ)家族の収入金一一五、四三五円、(ハ)純資減少額(即ち負債の増加)金二〇、七五一円によつて支弁せられた外は原告の営業による利益によつて支払われたものと推認しなければならない。

従つて、(ニ)金三八〇、八七五円より(ホ)金一一五、四三五円、(ハ)金二〇、七五一円を差引いた残金二四四、六八九円は原告の営業による利得と推算すべきである。

(ト) 右利得金二四四、六八九円から必要経費として控除さるべき固定資産の減価償却費を控除した残額が原告の営業による総所得金額である。そして、建物及びケースの取得価額が被告主張のとおりであることは原告の認めるところであり、昭和二八年政令第一六二号所得税施行規則第一二条の二、昭和二六年大蔵省令第五〇四号固定資産の耐用年数等に関する省令第一条第五条による償却額が被告主張のとおり建物については金二、三二一円、ケースについては金九四五円、合計金三、二六六円となることは計数上明かである。

よつて、原告の昭和二八年度における総所得金額は金二四一、四二三円と推算される。

第三、以上によつてみるに、原告の昭和二八年度の総所得金額を、右金二四一、四二三円の範囲内において金二二〇、〇〇〇円と決定した更正を是認した本件審査決定は全部適法であつて、之を違法とする原告の請求は理由がないので之を棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 新妻太郎 小林謙助 丹野益男)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例